わたしが旅に出る理由

わたしの旅はビジネスバッグではなく、ショルダーバッグではじまりました。


はじめて旅に出たとき、わたしはバックパッカーという言葉すら知らなかったのです。


当時、欧米では当たり前の旅のスタイルとして定着していたに違いなかったのですが、ユーラシア大陸の東端の島国には、まだそんな旅の文化は到達していなかったのです。


だからわたしは、あの頃の日本人の多くがそうしたように、やや大きめのショルダーバッグに衣類やカメラを詰めて出かけたのです。


当時の日本で、あえてバックパッカーに近い言葉を探せば、無銭旅行者という言い方がありました。


しかしその言葉から連想されるのは、野宿も辞さないヒッチハイカーでした。


あの頃、大学生だったわたしは当然金はなかったのですが、野宿やヒッチハイクをするほどの旅の覚悟はありませんでした。


だからショルダーバッグだったのです。


それから21年がたちました。


わたしは今、やや小ぶりのザックを背負って旅に出ます。


日本人の旅のスタイルも変わったのかもしれませんが、わたしもショルダーバッグからバックパッカーに進化したということかもしれません。

調節タンパク質とは何か 4

エンドルフィン・ベプチドがその例です。


この一群の短.いアミノ酸鎖は、(その名が示すように)脳内の細胞間で信号を伝達する物質です。


特に、エンドルフィンは、痛みの有無を知らせる信号の伝達に関与する、いわば体内のモルヒネ様物質であると疹えられています。


これらのタンパク質の役目は、限定されたわずかな神経細胞間での信号伝達なので、その量は脳全体でもほんのわずかでよいのです。


このようなわけで、これまでにわかった神経伝達物質は、この種のタンパク質全体から見れば、ごく一般的なものにすぎないのかもしれません。


こう考えられる証拠は、身体全体に神経細胞がほんの数百個しかないアメフラシなどの下等生物に認められます。


人間よりもはるかに単純なこれらの生物にも、人聞の脳内に見つかったのと同じ数の神経伝達物質が発見されたのです。


これは、数十億個の神経細胞の中の1個の細胞から産生されたタンパク質よりも、数百個の中の1個の細胞から産生されたタンパク質の方が、はるかに見つけやすいからです。


つまり、十億個の脳細胞の中から、数十個のタンパク質分子を見つけ出すのはほとんど不可能といってよいでしょう。


そこで、検出できるのは、多数の神経細胞が同時につくり出したものだけです。


しかし、たとえそういった物質が見つかったとしても、その機能を正確に解明するには、量がわずかなために、分析さえできないでしょう。

調節タンパク質とは何か 3

タンパク質、ホルモンの中には、低濃度にしか存在しないものもあります。


たとえば、成長ホルモンなどのタン.パク質は、その効力がきわめて大きいので、血液中にごく微琉存在するだけで十分です。


成長ホルモンの場合、数千分の1グラムでも子供の成長速度に劇的な変化をもたらします。


しかし、成長ホルモンは、私たちの発育速度を調節している多様なホルモンの代表例の1つにすぎません。


これらの微量タンパク質が長い間人目に触れなかったのも不思議ではありません。


調節タンパク質は、体内のもっと限定された部位にも存在します。


こういったタンパク質で、私たちが知っている2、3のものは、まさに氷山の一角にちがいありません。


つまり、既知の調節タンパク質ごとに、未.発見のものがさらに十数種類はあると思われるのです。


このような分子の代表格は、「神経伝達物質」と呼ばれる一群のタンパク質です。

調節タンパク質とは何か 2

生物学の歴史の中で、このようなタンパク質が過去20年間に最も多く発見されたことは、現在の電子通信の時代にふさわしい出来事といえるでしょう。


こうしたタンパク質で最初に発見されたのは、ホルモン類です。


ホルモンは、血液を介して体内の離れた部位に信号を伝達する物質です。


インシュリンがその例です。


実際、インシュリンは遺伝子工学による最初の製品の1つでした。


このホルモンがうまく働かないと深刻な病気になるので、インシュリンの具体的な働きはまた次の機会で検討しましょう。


インシュリンのような物質は、その役割がメッセージの伝達であり、何らかの活動を行うわけではないので、体内にほんの少量存在すればいいでしょう。


これはちょうど、ラジオ受信機に入ってくる信号が、その信号の生み出す電気的効果に比較して、ごく小さいことにたとえられます。


インシュリンは比較的ありふれたホルモンであり、健康な人間の体内では、簡単に検出できる量のインシュリンが血液とともに循環しています。

調節タンパク質とは何か

酵素はきわめて有用なタンパク質であるとはいえ、タンパク質はそれだけではありません。


たとえば、細菌にコラーゲンをつくらせてもいいのです(ただし、商業上の価値は、あまり高くないかもしれませんが)。


あるいは、構造タンパク質以外の別のタイプのタンパク質、たとえば、調節タンパク質などを細菌につくらせてもよいでしょう。


このタンパク質の潜在的な有用性はきわめて高いものですが、その理由を理解するには、まず、それがどんなものであるのか調べてみなければなりません。


「調節タンパク質」という言葉は意味範囲が広すぎて、科学者がそのまま使用するには難があります。


しかし、その言葉は、数多くのさまざまなタンパク質を表すものであり、そのタンパク質の働きは、反応を触媒したり、物理的に身体を保持したりすることではなく、身体という複雑な集合体を適切な状態に調節するためのメッセージを伝達することです。


これらのタンパク質は、人間の調節系の一端を構成する物質です。


それらは、細胞内の互いに近接した部分の開でも、また逆に、脳と足のように極端に離れた部位間でもメッセージを伝達することができますが、すべて情報伝達に関与している点では同じです。

自らがつくり出せない酵素を得る 6

1個のDNAから、酵素とDNAの両方を効率よく大量に供給できるのです。


実際には、元になるDNAとその生産物である酵素は、細胞の中に存在しなければなりません。


・・・というのは、有用な量のタンパク質を生産するには、タンパク質を産生する酵素とDNAの自己複製を触媒する酵素の両者を細胞内に保持しなければならないからです。


たとえば、このような細胞として細菌を使ったとします。


細菌が増殖するにつれて(実際、細菌の増殖速度は非常に速い)、細胞内のDNA複製酵素は、新しいDNAをつくり出し、別の酵素がそのDNAから目的とする酵素を産生します。


これは、遺伝子工学の具体例にほかなりません。


DNAを利用して酵素をつくるその酵素が、まさしく目的の酵素である場合ですが・・・ことは、一見遠回りのように思えます。


しかし、DNAの自己複製機能を利用して最大限の供給が図れるので、理にかなった方法といえます。


また、生産物を酵素に限る必要はありません。

自らがつくり出せない酵素を得る 5

ビタミンを生産する用途以外にも、酵素は、原理的には、産業廃水を分解して無害化したり、海上に漏出した.石油を分解したりするなど、あらゆる反応の触媒として利用できます。


新しい酵素をつくり出したり、既存の酵素を大量に欲しいときには、試験管の中でしかるべきアミノ酸をしかるべき順序で結合すればいいのです。


(ただし、すでに述べたように、アミノ酸の正しい配列順序を見つけ出すのがひと苦労です)。


あるいは、仔ウシの胃からレンニンを抽出したように、生物から酵素を取り出してもよいでしょう。


しかし、酵素は永続的に働きを保てません。


手もちの酵素がなくなれば、再び試験管や仔ウシに戻ってやり直さなければならないのです。


他方、私たちにとって必要な酵素のつくり方を細胞に教える塩基配列を備えているDNAを取り出した場合は、DNAの自己複製能力を利用して、望みのときにいつでも多量のDNAをつくり、それを利用して酵素を生産することができるのです。


元のDNAは1個でよいのです。


それを自己複製させれば、望みの量のDNAが手に入ります。

自らがつくり出せない酵素を得る 4

酵素は、特定の物質に結合して、それを他の物質に変換するときの触媒として働く独特の形状をしたタンパク質です。


タンパク質は、特定の配列順序で結合したアミノ酸の鎖から構成されており、その折りたたみ形状は、アミノ酸の配列順序によって決まっています。


そして、タンパク質のアミノ酸配列は遺伝子の塩基配列によって決まります。


したがって、細菌がビタミンB12を産生するのは、細菌のDNAの一部分の塩基配列がそうなっているからです。


人間の体内でビタミンBができないのは、人間のDNAがそのような情報、すなわち遺伝子を含んでいないからです。


人間の場合は、ビタミンB12を手に入れたいと思うときには、化学的に合成するか、細菌から抽出した酵素を利用するか、あるいは(菜食主義者のように)細菌自体を利用すればいいでしょう。


しかし、最も効率がよいのは、遺伝子そのものを利用することでしょう。


酵素の潜在的有用性はきわめて大きいものなのです。

自らがつくり出せない酵素を得る 3

ビタミンB12なしで生きていける植物は、細菌とは違って自らそれをつくり出すことはなく、人間と違って他の生物がつくったものを利用することもありません。


ほとんどの人間は肉や酪農製品からビタミンB12を摂っています。


しかし、動物性食品をまったく食べない完全菜食主義者は、これらの食料からビタミンB12を得ることができません。


しかし、彼らにビタミンB12欠乏症の徴候は見られません。


なぜでしょうか。


それは、植物の体表面上や土中に生息している細菌には、ビタミンB12を必要とするものがおり、それらは自らビタミンB12を産生しているからです。


人間が野菜を食べると、通常、そこに付着しているわずかな細菌も口に入り、それとともに、人体に必要なビタミンB12を摂取することになります。


つまり、植物性の食物以外ほとんど口にしない完全菜食主義者は、細菌からビタミンB12の全必要量を得ているのです。


・・・ということは、事実上彼らは、この必須ビタミンの生産に細菌の酵素を利用しているといえます。


しかし、このようなことが、遺伝子とどうかかわってくるのでしょうか。

自らがつくり出せない酵素を得る 2

細菌の中には、そのような代謝ヒの弱点をもっておらず、いかなる食物上でも繁殖できるものがいます。


このような細菌は、与えられた食物を自己の増殖に必要な塩基、アミノ酸、その他の分子に変換する、すべての酵素をつくり出す遺伝子を体内にもっているのです。


ビタミンB12は、人間だけでなく、多くの細菌にとっても必須物質です。


しかし、細菌は、ビタミンB12を他のありふれた分子からつくり出す}群の酵素を細胞内にもっていて、摂取している食物中にこのビタミンが不足気味になると、それをつくり始めます。


細菌が人間にとってきわめて有益なものになりうるのは、単純な分子から複雑な分子をつくり出す、このような多彩な能力を備えているからです。


これは、細菌が、そのような能力をもたらす特定の遺伝子をもっているからであり、遺伝子の塩基配列が、私たちにとって必須の酵素のアミノ酸配列を暗号化しているからにほかなりません。


ということは、自己の必要量を上回るビタミンB12を産生するように細菌を「調教」できれば、余剰分を私たちが利用できるということです。


これは、まったくのつくり話ではありません。

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